厚生労働省が実施している労働者統計によると派遣社員・契約社員として働く人は、日本国内に400万人以上存在しています。これは、日本の勤労者全体の7-8%程度を占めると言われていて、シェアはそれほど大きくありません。(総務省統計局・労働力調査はこちら)
この記事では派遣社員・契約社員として働く人の住宅ローンの審査について解説しています。派遣社員・契約社員は、いわゆる「非正規雇用」の社員で、日本では2000年以降に増加していて、近年は正規雇用との格差や同じ仕事をしているにも関わらず賃金が低いといった話題で注目を集めることが増えています。
正社員も終身雇用が当たり前の時代は終わりを迎えたとも言われています。能力や技術があれば正規雇用も非正規雇用が大差ないと考えることもできるのですが、今の日本の住宅ローンの審査においては「正規雇用」が有利で、非正規雇用(派遣社員など)がどうしても不利です。
この記事では、そんな非正規雇用(派遣社員・契約社員)の住宅ローン審査について解説しています。
目次
派遣社員・契約社員は住宅ローン審査に通りにくいのは本当?
派遣社員・契約社員で働きながらマイホームを持つのは夢のまた夢。住宅ローンの審査にも落ちるに決まっていると思い込んでしまっている人は多いと思いますが、決してそんなことはありません。
派遣社員・契約社員で住宅ローンを組むことができたという声は世の中にたくさん溢れていますし、ひとり親で派遣社員と働いている方でも住宅ローンを契約してマイホームを購入した人はたくさんいます。
ただし、派遣社員・契約社員の場合、「公務員」や「正社員」と比べた場合、住宅ローンの選択肢が限られてしまうのも1つの事実です。
最初から派遣社員・契約社員では利用できない住宅ローンもあれば、あっさり審査に落ちてしまうような住宅ローンもあります。
この記事に訪問いただいた皆様に頭に入れておいてほしいポイントは2つです。
1つ目は雇用形態が派遣・契約だとなぜ住宅ローンの審査に通りにくいのかを理解して対策欲しいということ。
そして、もう1つは、審査する時に雇用形態をそれほど重視していない住宅ローンの存在を認識しておいてほしいということです。
なぜ、派遣社員・契約社員は住宅ローン審査で不利と言われているのか?
住宅ローンは最大で35年間もの長い時間をかけて返済するローンです。最近は50年ローンも誕生しました。
借り入れ金額も数千万円~2億円と高額で、数年の支払いが終わる自動車ローンや教育ローンなどとは比べられないローン商品です。
金融機関側の視点では、住宅ローンは安定して返済してくれる人に限定して貸したい商品です。つまり「今の収入」だけでなく、「収入の継続性」「今後の収入」を加味して審査する必要があります。このように金融機関が何を考えて審査しているのかという点を理解することが重要になってきます。
「派遣社員・契約社員」が住宅ローンの審査で不利と言われるのはまさにこの点です。例えば、20代や30代ぐらいだと「正社員より派遣社員の方が収入が良い」ということがよくあります。それでも「正社員」の方が住宅ローンの審査に通りやすいのは「収入と返済能力の継続性」が統計的に高いためです。
「ハケンの品格」というドラマで取り上げられたように「たくさんの会社で必要とされる技術や知識を武器に複数の企業で働く」という派遣社員もいるのかもしれませんが、大半の派遣社員は特別な技術や知識を武器に働いているわけではないので、不景気になったり会社の業績が下がった時に雇用を打ち止めされたりする可能性があります。
なお、改正労働者派遣法では、同一人物を3年以上派遣社員として雇用してはいけないことになっています。派遣社員として3年間経過した場合は、正社員・契約社員・属宅社員などのように雇用形態を変えなければ同じ人を雇用し続けることができないことになっています。金融機関もこの派遣法については把握していますので、派遣社員を何年も続けている、それが3年周期で派遣先の会社が変わっているだけだと、正社員になれずにいると判断される可能性もあります。
重要なのは「安定した収入の継続性」、つまり「今まで継続して収入を得ているか」ということ
まず、雇用形態問わず重要になってくるのは、過去の実績として継続的に収入を得ているかという点です。つまり勤続年数です。
住宅ローンによって審査の内容が異なりますが、必ずしも「同じ会社に連続して勤続しているか」が審査項目になっているわけではありません。正社員であろうと派遣社員であろうと、毎月、収入を得ていたのかという点が重要視されるようになってきます。
収入が途絶えた経験があると、住宅ローンの審査では厳しくみられるのは確実です。必ず審査に落ちるとまではいいませんが、直近3年間で収入が途絶えたことがある人は申し込みを行う住宅ローン選びは慎重に行った方が良いでしょう。
ここまでが1点目の「雇用形態が派遣・契約だとなぜ住宅ローンの審査に通りにくいのかをしっかりと理解」していただくための説明でした。
続いて、「雇用形態をそれほど重視しない審査基準としている住宅ローン」について確認していきましょう。
※「雇用形態をそれほど重視していない住宅ローン」か否かは当サイトを含めて、外部の人間では正確には把握できません。一般公開されている情報から推測する必要があります。
金融機関の雇用形態に対する姿勢を事前に確認
憶測で語るよりも確実でわかりやすいのが、金融機関が開示している審査基準を確認することです。
「正社員」「派遣社員」「契約社員」などの利用できる種別を明確に公表している金融機関と、触れていない金融機関に分かれていますが、単刀直入に言えば、住宅ローンを利用できる人の雇用形態が明示されていて、かつ「派遣社員」「契約社員」でも利用できると明記されている住宅ローンは、派遣社員・契約社員の方に適した住宅ローンの可能性が高い考えるのが自然です。
「働き方・雇用形態」の条件として「派遣社員・契約社員はNG」と記載している住宅ローンは審査に通らないわけですが、働き方・雇用形態について触れていない住宅ローンも基本的には審査に通りにくいと考えておいた方が無難です。「絶対に審査に落とすとは限らないから書いていないだけ」というケースが多いためです。
それでは、主要金融機関の対応状況を確認しておきましょう。「契約社員」「派遣社員」で条件が違うことがあるのでそれぞれ記載しています。
住宅ローン審査における契約社員・派遣社員の利用可否
銀行名 | 契約社員 | 派遣社員 |
---|---|---|
SBIアルヒ フラット35 | 〇 | 〇 |
住信SBIネット銀行 フラット35 | 〇 | 〇 |
auじぶん銀行 | 〇 | 〇 |
イオン銀行 | △※1 | △※1 |
SBI新生銀行 | 〇 | × |
みずほ銀行 | 〇 | 〇 |
ソニー銀行 | × | × |
三菱UFJ銀行 | 〇 | 〇 |
※1 イオン銀行では「健康保険・厚生年金保険の被保険者であり、雇用保険への加入が確認できること」が条件として明記されています。
派遣社員・契約社員でも利用しやすいことで有名なフラット35はもちろん対応しています。
auじぶん銀行やイオン銀行は「よくある質問」などで雇用形態を明示したうえで可能とし、総合的に判断することを記載しています。
現時点の審査基準や金利面から「雇用形態をそれほど重視していない審査基準としている(可能性がある)住宅ローン」として、比較検討先に加えてほしいと思うのは2社で、1社目はauじぶん銀行です。auじぶん銀行の住宅ローンは「医療保険」に近いような疾病保障「がん保障」や「入院保障」が無料で付帯されますので、福利厚生代わりと言うわけではないですが、返済中の想定外の病気やケガに備えることができるのでかなりおすすめです。
もう1つは「フラット35最大手」のアルヒです。アルヒは過去11年連続でフラット35実行件数1位です。つまり、「色々な事情を抱える人の住宅ローンをサポートしてきた実績がある」のと、全国に多数の店舗を抱えているので相談しやすいという点でおすすめです。
他にも気を付けておきたいポイントがありますので、最後にあらためて確認しておきましょう。
派遣社員・契約社員の人に注意してほしい審査項目・注意点
勤続年数
派遣社員の方は所属の派遣会社での勤務年数、契約社員の方は勤務先での勤続年数が基準となります。「派遣されている先」での勤続年数ではないですよ、ということです。自営業と比較すると勤続年数は厳しく見られませんが、最低でも1年、できるだけ3年連続して勤続していることが望ましいとお考え下さい。
年収
全員が該当するわけではありませんが、「正社員」よりも「派遣社員」「契約社員」の収入は低くなりがちですので、年収に関する制約も確認しておくと良いでしょう。大手の金融機関の場合300万円以上の年収が必要とされるケースが多いようです。例えば、イオン銀行は年収100万円以上、SBI新生銀行は300万円以上、ソニー銀行は400万円など、金融機関によって条件が異なっています。ご自身の年収に合わせて、申し込みする住宅ローンを選択するようにしましょう。
なお、派遣社員や契約社員の方でも契約が可能なフラット35。フラット35の中でも最低水準の金利を提示している楽天銀行フラット35には、明確な年収の基準がありません。借り入れ希望金額や総返済負担率によっては年収100万円程度でも借り入れ可能と言われています。ただし、年収に占めるすべての借入の年間返済額(カードローンや自動車ローンを含む)の割合(=総返済負担率)が定義されていますので注意しましょう。(年収400万円未満は30%以下、 400万円以上は35%以下)
年収ごとの借入限度額は?
以下は元利均等返済でフラット35をで35年ローンで借りた場合のシミュレーションです。(他の借り入れ・返済がない場合)
限度額 | |
150万円 | 1,244万円 |
200万円 | 1,659万円 |
250万円 | 2,074万円 |
300万円 | 2,489万円 |
350万円 | 2,903万円 |
400万円 | 3,871万円 |
450万円 | 4,355万円 |
カードローンやリボルビング払いなどの借入
正社員の方でもカードローンやリボルビング払いなどの借入があると、住宅ローンの審査が通らない場合や銀行がその完済を住宅ローン融資の条件とする場合もあります。こんな表現はできればしたくないのですが、どうしても審査で厳しく見られがちな派遣社員・契約社員の方は住宅ローン審査の際に、これらの利用残高のない状態にして審査申込しておくと良いでしょう。
ちなみに、スマートフォンの本体の代金を毎月の携帯電話料金と合わせて割賦で返済する手法が主流ですが、この割賦も個人信用情報機関に登録されるので支払い遅延などは絶対にないように心がけましょう。
頭金・自己資金
雇用形態問わず「自己資金」「頭金」を準備できているかどうかは重要になってきます。審査の面では「計画的にお金を貯蓄してきた実績」を示す材料となりますし、何よりも住宅ローンを組む金額を抑える効果があります。頭金をしっかりと用意することで、後々の返済負担比率を低めにできますので、住宅ローン借り入れ後のゆとりある生活の為にも可能な限り準備できると良いですね。もちろん、「頭金なし」「自己資金なし」でも住宅ローンの借り入れは可能です。