社長・経営者の住宅ローンは、個人の年収だけでなく、収入の源泉である法人の決算までセットで審査されます。民間銀行では「設立後3期分の決算・納税」が目安とされることが多く、ここを満たせないと年収が高くても通りにくいのが実情です。
一方で、フラット35には勤続年数・営業年数の定めがありません。期数が浅いうちは全期間固定を軸に、決算が3期分そろってから民間銀行を検討する——これが経営者の基本戦略になります。
代表取締役やオーナー社長のような「会社経営者・起業家」と、企業や役所に雇われて働く人との決定的な違いは、「労働者か、労働者ではないのか」という一点にあります。
会社経営者は、労働法で守られる労働者ではありません。会社の中では「オーナー」や「経営者」が大きな力を持ち、「社員」である「労働者」は弱い立場にあります。そのため、経営者が労働者を不当に扱うことのないよう、労働者を守る法令や制度が幾重にも整えられています。
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一方で、「経営者」側を守る制度もある程度は存在しますが、事業や会社を運営するリスクを補えるほどのものではありません。この非対称性が、そのまま住宅ローン審査の評価にも表れます。
会社経営者だと住宅ローン審査に厳しいのは本当?
住宅ローンは高額な資金を長期間貸し出すため、継続的かつ安定的な収入を得られるかが重視されます。
たとえば会社員(サラリーマン)は、会社と雇用契約を結び給料を受け取っています。会社の業績で給料が増減することはあっても、会社の借金について責任を負うことはありません。また、雇用保険や労災保険などの制度が整っているため、仕事がなくなったり収入が途絶えたりすることをできるだけ防ぐセーフティーネットがしっかりしています。
その一方で、社長・経営者・オーナー・代表取締役は、リスクを負って経営を行っているうえに、雇用保険が適用される労働者ですらありません。会社の業績が悪化すれば役員報酬がカットされる可能性があるのはもちろん、即退任を求められる可能性もあり、退任後に雇用保険で一定水準の収入が保障される制度もありません。
社会的地位や会社の中での立場で考えると、高い収入を得て多くの人を雇っている経営者が、住宅ローンの審査で従業員よりも不利な面が多いというのは納得できないかもしれません。しかし、お金を貸す側から見ると、一時的に収入が高い人よりも、安定した収入を維持できる人のほうが優良なお客さまなのです。
経営者の審査は「個人」と「法人」がセットで見られる
ポイントは、住宅ローンが数千万円もの資金を、最長35年(金融機関によってはそれ以上)にわたって融資し続ける金融商品であるという点です。返済し続けられる人物かどうかを長期の視点で判断する必要があるため、経営者の場合は申込者個人の収入だけでなく、収入の源泉である法人の状態まで含めて評価されるのが一般的です。
実際、経営者、特に同族企業や中小企業の経営者の住宅ローン審査は厳しく見られる傾向があります。起業してすぐに住宅ローンを申し込んでも、かなりの確率で審査に落ちることになります。事業を成功させて利益を出しているだけでなく、事業が中長期的にも軌道に乗っていると判断してもらう必要があるわけです。
経営者が見られる観点は、大きく次の5つに整理できます。以降の見出しで、それぞれを順に確認していきましょう。
- 法人の存続期間と決算内容(何期経過しているか、赤字はないか)
- 役員報酬の水準と安定性(個人としての返済原資)
- 事業の業種・取引先(収益の振れ幅)
- 頭金(自己資金)の厚み(担保割れリスクの小ささ)
- 健康状態と団信への加入可否
法人設立後の経過期間・決算内容について
経営者に住宅ローンを貸し出すときの審査基準として、「法人を設立して3期が経過(3期分の決算・納税)していること」という基準が設けられているのが一般的です。
また、直近3期に赤字の年度があると、審査ではかなりマイナスになります。赤字があると絶対に審査に落ちるとまでは言いませんが、事業の安定性の観点でマイナス評価されるのは間違いありません。
「税金を払いたくない」「節税したい」という理由で意図的に「赤字」の状態にすると、住宅ローンの審査ではマイナスに響きます。なお、役員報酬を法人の損益から差し引いて考えても赤字になっているような経営状態だと、住宅ローンの審査ではかなり厳しい結果になると覚悟しておきましょう。
特に、16年連続で【フラット35】の実行件数シェア第1位(2025年度27.7%。※2010〜2025年度統計、取り扱い全金融機関のうち借り換えを含む【フラット35】実行件数、2026年3月末現在・SBIアルヒ調べ)を獲得しているSBIアルヒ(旧ARUHI)は、社長・経営者への融資実績も豊富です。全国に拠点を構えているため、相談先の候補になります。
参考までに、各金融機関の住宅ローンにおける勤続・営業年数と収入の基準を並べてみます(いずれも2026年9月時点で各行の公式資料にて確認)。
| 金融機関 | 勤続・営業年数 | 収入の基準 |
|---|---|---|
| SBIアルヒ フラット35 | 定めなし | 総返済負担率の基準(年収400万円未満30%以下/400万円以上35%以下) |
| ドコモSMTBネット銀行(旧・住信SBIネット銀行) フラット35 | 定めなし | 同上(フラット35共通の基準) |
| auじぶん銀行 | 定めなし | 前年度年収(自営業は申告所得)200万円以上 |
| イオン銀行 | 会社経営者・個人事業主は事業開始後3年を経過(給与所得者は6カ月以上勤務) | 給与所得者・会社経営者は前年度年収100万円以上(個人事業主は前年度所得100万円以上) |
| SBI新生銀行 | 個人事業主は業歴2年以上 | 個人事業主は2年平均の所得(経費控除後)300万円以上 |
| みずほ銀行 | 公表の条件に勤続年数の定めなし | 安定した収入のある方(満18歳以上71歳未満・最終返済時満81歳未満) |
| ソニー銀行 | 定めなし | 前年度年収(自営業は申告所得)400万円以上 |
表からわかるとおり、「営業年数◯年以上」という数値基準を明示している金融機関はむしろ少数派です。ただし基準が明示されていないことは「甘い」ことを意味しません。数値基準がない代わりに、決算書・確定申告書を通じた個別審査で判断されると考えておきましょう。主要行の勤続年数・年齢・健康状態の条件は主要7行の条件比較にまとめています。
役員報酬と決算の「見え方」——節税と与信のジレンマ
民間銀行の住宅ローンでは、社長・経営者に対する審査は「個人の源泉徴収票」だけで行われるわけではなく、経営する法人の業績も参照されます。そのため、住宅ローン審査の際に、経営する法人の決算書や確定申告書の提出が求められるわけです。
なお、経営者は法令の許す範囲で経費や利益をコントロールできます。そのため「節税」を目的に「利益を減らす」という行為がよく行われます。法令で許される範囲での節税は会社経営上は大切なことですが、住宅ローンやクレジットカードなど”与信”を伴う金融商品を利用するときには不利になります。
ここで見落とされがちなのが、役員報酬を低く抑えている場合も同じように不利に働くという点です。法人に利益を残す方針そのものは健全でも、住宅ローンの返済原資として見られるのは原則として個人が受け取る役員報酬だからです。会社が黒字でも、役員報酬が低ければ借入可能額は小さくなります。
社長・経営者で将来的に住宅ローンの申し込みを考えている人は、事業性ローンを必要以上に抱えるのを避けるだけでなく、2~3年後に決算書を金融機関へ提出したときにどう見られるかも意識した決算・役員報酬の設定を行っておくことをおすすめします。
なお、役員報酬は原則として期首から3か月以内にしか変更できないため、思い立ってすぐに調整できるものではない点にも注意が必要です(役員給与の損金算入の扱いは国税庁「役員に対する給与」に整理されています)。
なお、事業内容によっては減価償却費や銀行への融資返済などが考慮されることもあります。いずれにせよ、過去3年の業績を第三者の視点で分析・評価する気持ちが大切です。
事業の業種・取引先について
これは「明確に金融機関から教えてもらえることはない」のですが、事業の業態も審査の材料とされることがあります。たとえば、たまたま流行している可能性があり参入障壁も低いネットビジネスよりも、社会インフラを担っていて業績が大きく変わらない業種のほうが、審査に有利になることがあるようです。
特定の業種の批判になるようなコメントは差し控えますが、業種のほかに取引先が特定の一社に偏っていないか(依存度)なども、収益の振れ幅を推し量る材料として参照されることがある、というわけです。
頭金(自己資金)について
事業性ローンとは違い、住宅ローンを借りるときに「事業計画」のようなものの提出は不要です。そもそも住宅ローンは「マイホーム」を担保に差し出してお金を借りる仕組みなので、住宅の価値に対して借入金額が少なければ、審査に通る可能性はぐっと高まります。
また、会社・個人の資金の移動をコントロールしやすい社長やオーナーであるにもかかわらず、頭金をまったく用意せずに家を買おうとするのは、計画的とは言えないでしょう。銀行に対して「お金の管理をきちんと行える人物」であることをアピールする意味でも、頭金はしっかり用意しておきましょう。
最近は頭金ゼロでも住宅ローンを借り入れできるようになっていますが、それを利用しやすいのは公務員やサラリーマンのような安定収入の期待値が高い人たちです。社長・経営者・オーナー・代表取締役・取締役は、できれば2~3割の頭金を用意しておくべきでしょう。
フラット35を利用する場合、頭金の厚みは金利そのものにも影響します。融資率(借入額÷建設費または購入価額)が9割以下か9割超かで借入金利が変わる設計になっており、9割を超える場合は返済の確実性等をより慎重に審査するとされています。頭金1割は、経営者にとって「審査の通りやすさ」と「金利」の両方に効く分岐点だと考えておくとよいでしょう。
健康状態と団体信用生命保険
住宅ローンの借り入れには各銀行が指定する団体信用生命保険(団信)への加入が必要なため、持病・健康状態・病歴などにより団信に加入できず、結果的に住宅ローンを借りられない場合があります。
これは、住宅ローン借入者が死亡した場合に団信から住宅ローン残高が弁済され、残高がゼロになるという特性を持っているためです。借入希望金額によっては、保険会社所定の診断書の提出が必要になる場合があります。
社長・経営者・オーナー・代表取締役・取締役は、いわば会社そのものであり、その会社に万が一のことがあれば役員報酬・収入に影響し、住宅ローンの返済にも影響します。そのため、健康状態も厳密にチェックされるでしょう。
なお、健康状態に不安がある方でも、住宅ローンを諦める必要はありません。auじぶん銀行やイオン銀行では、金利に上乗せすることで引受条件を緩和した団信「ワイド団信」を扱っています。auじぶん銀行のワイド団信は適用金利に年0.300%の上乗せ(満65歳以下の方が対象)、イオン銀行のワイド団信も一般団信より年0.300%高い金利が適用され、借入時満50歳未満という加入要件です(2026年9月時点・各行公式にて確認)。
とくにイオン銀行は、ワイド団信付住宅ローンの商品概要説明書で会社経営者の条件(事業開始後3年を経過・前年度年収100万円以上)まで明示しています。団信の保障範囲や加入年齢は金融機関ごとに異なるため、金利だけでなく保障内容と年齢要件もあわせて比べましょう。
もう一つ、経営者にとって覚えておく価値があるのがフラット35は団信への加入が任意だという点です。健康上の理由その他の事情で団信に加入しない場合でも利用でき、その場合は借入金利が異なります。団信に入れないことを理由に住宅取得そのものを諦める前に、生命保険などで別途備える前提でフラット35を検討する道もあります(団信なしは万一の際に残債が残る点に十分注意してください)。
経営者が候補に入れやすい住宅ローンの選び方
ここまでを踏まえると、経営者の住宅ローン選びには2つの方向性があります。
① 全期間固定のフラット35を軸に考える
フラット35は住宅金融支援機構と民間金融機関が提携する全期間固定金利型の住宅ローンで、申込要件に勤続年数・営業年数の定めがありません。判断の中心は「年収に占める年間合計返済額の割合(総返済負担率)」で、次の基準が公表されています。
| 年収 | 総返済負担率の基準 | 備考 |
|---|---|---|
| 400万円未満 | 30%以下 | 住宅ローン以外の自動車ローン・教育ローン・カードローン等もすべて合算して判定 |
| 400万円以上 | 35%以下 | 給与収入のみの方は給与収入金額、それ以外の方は所得金額で判定 |
そのほか、申込時の年齢は満70歳未満、借入額は100万円以上1億2,000万円以下、保証人・保証料・繰上返済手数料は不要といった条件が共通で設けられています(住宅金融支援機構の公表要件・2026年9月確認)。
事業の期数がまだ浅い経営者にとって、勤続・営業年数の縛りがないことは大きな意味を持ちます。条件の詳細は住宅金融支援機構の技術基準ページと、自営業・個人事業主の住宅ローン審査の解説もあわせて確認しておくと判断しやすくなります。
なお、住宅金融支援機構は楽天グループと連携し、2026年10月1日以降にフラット35を借り入れた方(借換えを含む)を対象に楽天ポイントを進呈する「フラットすまい・るポイント」を開始すると公表しています。楽天IDが必要で、借入日から6か月を経過する日までに申請サイトからの申請が必要(自動では付きません)とされています。
進呈ポイント数は借入金額に応じて異なり、ポイントは1ポイント=1円として使えます(機構の特設サイトで確認)。あくまで副次的な要素であり、金利水準・融資手数料・団信の内容で選ぶという原則は変わりません。
② 民間銀行で、決算内容が整った時期に申し込む
変動金利の低さを重視するなら民間銀行が候補になりますが、その場合は「3期分の決算が黒字で揃ってから申し込む」のが基本戦略です。逆に言えば、設立直後や、直近期に大きな赤字が出た直後は、申し込みのタイミングとして適していません。審査に落ちた履歴は他行への申し込み時にも影響し得るため、準備が整うまで待つ判断も選択肢です。
民間銀行のなかでは、SBI新生銀行のように諸費用の内訳がシンプルな銀行も、経営者にとっては比較しやすい選択肢の一つです。事務手数料は借入金額の2.20%(税込)の定率型で保証料は0円、一部繰上返済手数料も0円、一般団信の上乗せ金利は0円(上乗せなしの全疾病保障付団信も用意)と整理されています。店舗相談とオンライン手続きの両方に対応している点も、時間の取りにくい経営者には使いやすいところです。
また、同行は原則として事前審査(仮審査)を行わず本審査で完結する運用のため、決算書などの必要書類を最初から一式そろえて臨む心づもりをしておくとスムーズです。
個人事業主については「業歴2年以上、かつ2年平均の所得(経費控除後)が300万円以上」という条件を公式のよくあるご質問で明示しています(2026年9月時点・公式にて確認)。
経営者の住宅ローンでよくある質問
Q. 法人設立から2期目ですが、申し込めますか?
A. 民間銀行では「3期分の決算・納税」を目安とするところが多く、2期目では見送りとなる可能性が高くなります。一方、フラット35には営業年数の要件がないため、総返済負担率などの条件を満たせば申し込み自体は可能です。ただし取扱金融機関が独自に審査を行う点は変わりません。
Q. 決算書は何期分を求められますか?
A. 民間銀行では直近3期分の決算書(法人)や確定申告書(個人)を求められるのが一般的です。必要書類は金融機関ごとに異なり、審査の過程で納税証明書などの追加提出を求められることもあります。早い段階で提出書類の一覧を取り寄せておくと、決算のスケジュールと申し込み時期を調整しやすくなります。
Q. 会社が借りている事業性ローンは、個人の住宅ローン審査に影響しますか?
A. 法人名義の借入そのものは個人の債務ではありませんが、経営者が法人の借入の連帯保証人になっている場合、審査で考慮されることがあります。中小企業では代表者保証が付いているケースが少なくないため、申し込み前に自身がどの借入の保証人になっているかを棚卸ししておきましょう。
Q. 役員報酬を来期から上げれば借入可能額は増えますか?
A. 審査で使われるのは原則として直近の確定した年収です。役員報酬を引き上げても、その水準が源泉徴収票や確定申告に反映されるまでには時間がかかります。住宅取得を計画しているなら、2〜3年先を見据えて報酬水準を設計しておくことが実務的な対策になります。
Q. 自宅を社宅にして法人で借りる方法とは、どちらが有利ですか?
A. 法人名義で取得する場合は住宅ローンではなく事業用の不動産融資となり、金利・期間・審査の考え方がまったく異なります。税務上の取り扱いも個別性が高いため、顧問税理士に相談したうえで判断してください。なお、住宅ローンは申込者本人やその親族が居住する住宅のための資金であり、第三者に賃貸する投資用物件には利用できません。
住宅ローンの返済に二重の安心を
日本では、上場していないオーナー企業を除き、役員報酬が諸外国と比較して低い水準にあります。
その一方で、近年は株主代表訴訟などの動きが活発化しており、その賠償要求金額は欧米と変わらない事例も増えてきました。
こうした状況への対策として、「会社役員賠償責任保険」という保険商品があります。
会社経営に携わっている人は、住宅ローン返済中の健康上の問題であれば団信で対応できますが、善管注意義務など会社経営上・業務遂行上のリスクにもしっかり備えるようにしましょう。個人の住まいと会社の経営は切り離せない——それが経営者の住宅ローンにおける出発点であり、着地点でもあります。
※本記事に記載の申込条件・手数料・団信の内容は2026年9月時点で各金融機関および住宅金融支援機構の公式サイトにて確認したものです。条件は随時見直されるため、最新の取り扱い状況は必ず各金融機関の公式サイトをご確認ください。










