小規模~中規模の法人が抱える課題の1つに、経費精算のコストがあります。正確には、経費精算処理を行うための人件費(手間)が課題になりがちです。
たとえば、原材料の仕入れや、従業員の出張・交通費の精算は、現金や銀行振込で処理するのが一般的です。しかし大企業と違い、総務・庶務部門に十分なリソースを割けない中小企業では、そもそも人手不足という問題があります。
そうした手間を減らす方法の1つが、社員に決済用・仕入用のカードを支給することです。カードで支払えば、1件1件の経費精算の確認・登録や、現金精算の手間を減らすことができます。代表的な選択肢が、法人向けのクレジットカードやデビットカードです。
ところが、クレジットカードやデビットカードは、従業員の使いすぎ・不正利用のリスクがあり、管理機能も十分でないため、多数の従業員に配布するには不向きな面があります。
これらの課題を解決するのが「法人向けプリペイドカード」です。プリペイドカードなら、あらかじめチャージした範囲でしか利用できないため不正利用のリスクを抑えられ、部門別・用途別に予算(予実)の管理がしやすいというメリットがあります。
目次
プリペイドカードとは
プリペイドカードとは、一般的にクレジットカードとほぼ同じ場所で利用できるカードです。ネットショッピングでも店舗での買い物でも、クレジットカードと同じように使えるのが特徴です。
プリペイドカードは、その気になれば社員全員に配布することもできるので、全社員の経費精算処理を効率化できます。クレジットカードと違って事後払いではなく前払い(チャージ式)で、与信審査がないため、すぐに、しかも何枚でも発行できるのもメリットの1つです。
一番の違いは「プリ(=事前に)」+「ペイド(=支払う)」という名前のとおり、使うお金をあらかじめそのカードにチャージしておく必要がある点です。面倒に見えますが、利用可能額をコントロールしやすいのは大きな特徴です。
プリペイドカードと言うと特殊な仕組みに感じるかもしれませんが、個人でも利用する機会は多い仕組みです。たとえばSuicaやPASMO、nanacoもプリペイドカードの一種です(クレジットカードと同じような番号が割り振られるプリペイドカードとは使える場所が少し違いますが、仕組みとしては同じ前払い式です)。
クレジットカード・デビットカードとの違いを整理する
法人カードには大きく3種類あり、「支払いのタイミング」と「審査の有無」で性格が分かれます。まずここを押さえておくと、自社に合うものが選びやすくなります。
| 種類 | 支払いのタイミング | 審査・発行枚数 |
|---|---|---|
| 法人プリペイドカード | 前払い(事前にチャージした残高の範囲内) | 与信審査が不要。発行枚数の制限を設けないサービスが多い |
| 法人クレジットカード | 後払い(利用分を後日まとめて口座から引き落とし) | 与信審査あり。利用限度額・発行枚数に条件が付くのが一般的 |
| 法人デビットカード | 即時払い(決済と同時に指定口座から引き落とし) | クレジットカードほど厳しい審査はないが、法人口座が必要 |
プリペイドカードは「チャージした分しか使えない」=使いすぎが構造的に起こらない点が最大の強みです。従業員に広く配布する用途では、この安全性がそのまま導入しやすさにつながります。
法人向けのビジネスプリペイドカードとは
プリペイドカードの仕組みをベースに、法人向けの付加価値を付けたのが「法人向けビジネスプリペイドカード」です。導入する企業が増えている理由は、「経費・経理の管理」や「経費精算作業」を効率化できるためです。
社員が個人のお金で経費を立て替えた場合、会社は事後精算されたタイミングで初めて支出を把握することになります。一方、会社から支給したプリペイドカードでの支出は、管理画面で経理担当者がほぼリアルタイムに確認できます。
残高が足りなくなれば簡単にチャージできますし、不正利用と思われる利用があった場合も、すぐに該当カードの利用を停止できます。近年はクラウドで発行・管理でき、会計ソフトと自動連携できるサービスも増えており、経理業務の効率化が一段と進んでいます。さらに、電子帳簿保存法やインボイス制度(適格請求書等保存方式)への対応機能を備えるサービスも登場しており、カードは「支払いの手段」から「経理業務そのものを回す仕組み」へと役割を広げています。
主要な法人向けビジネスプリペイドカードを紹介
法人向けのビジネスで利用できるプリペイドカードは複数の会社が提供しています。ここでは代表的なサービスを紹介します。なお、手数料・上限額・キャンペーンは改定されることがあるため、申し込み前には必ず各社の公式サイトで最新の内容をご確認ください。
Bizプリカ
特長
世界中のMastercard加盟店で利用できる法人向けプリペイドカード。TOMOWEL Payment Service株式会社(東証プライム上場・共同印刷のグループ会社)が2019年12月から提供しています。会社・個人に対する与信審査がないため、気軽に従業員全員へカードを支給できます。1円単位でチャージ・返金ができ、カードごとの利用明細をリアルタイムに確認できるのが特徴です。公式サイトによると累計導入企業は3,500社を突破(同社調べ)で、製造業・小売業・建設業・医療福祉・人材派遣など、現場に小口現金や立替が発生しやすい業種での利用が目立ちます(2026年9月1日時点・公式サイトにて確認)。
- カード1枚ごとに月額のサービス利用料がかかる(1枚単位で管理)
- カード1枚ごとに利用上限枠を変更できる
- カード利用時に通知メールを受け取れる
- 管理画面から各カードの利用状況を確認できる
- 会計ソフト・経費精算システムへ「利用日」「利用金額」「加盟店名称」等を自動連携できる
国際ブランド
Mastercard
申し込みの対象(法人格による区分)
Bizプリカは、申し込む側の法人格によってカードが分かれています。株式会社・有限会社・合同会社・合資会社・合名会社といった事業法人は「Bizプリカ」、一般社団法人・医療法人・学校法人・社会福祉法人・協同組合などの非営利法人は「BizプリカPLUS」が申し込み先です。法人登記のない個人(個人事業主・フリーランス)は申し込めませんので、この点は事前に確認しておきましょう。手続きではスマートフォンを使い、代表管理者の本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカードなど1点)を撮影する流れになります。
利用手数料(2026年9月1日時点・公式サイトで確認)
- 初期費用、カード発行費・カード発送費、カードへのチャージ手数料 いずれも無料
- サービス利用料 カード1枚につき月額150円(税別)
- 課金の対象は「月末時点でカードとユーザーが紐づけ登録され、カードのステータスが利用中または利用一時停止中のもの」。ユーザーと紐づけていないカードは課金対象外
- 公式サイトには「何回支払っても、何回チャージしても、月額費用以外はかかりません」と記載
- 2026年9月1日時点では、入会申し込み月を含めて6か月間が無料になるキャンペーンを実施中
※料金・チャージ上限・キャンペーンは改定されることがあります。最新の金額・実施状況はBizプリカ公式サイトでご確認ください。
paild(ペイルド)
特長
Visaブランドのクラウド型法人カード。株式会社ペイルドが提供しており、公式サイトによると導入企業は5,000社を突破しています(2026年8月2日時点・公式サイトにて確認)。与信審査が不要で、登記簿原本などの書類提出も不要(オンラインでの法人の本人確認のみ)のため、設立直後の企業でも導入しやすいのが特徴です。カードはオンラインでいつでも発行でき、従業員・部門・拠点・用途ごとに分けて予算を管理できます。カードごとに利用可能な金額や期間を制限でき、金額の変更は即時反映、紛失時は管理画面から停止できます。
経理まわりの機能が充実しているのも特長です。電子帳簿保存法に対応しており、メールで領収書を回収する機能を備えるためスマートフォンだけで提出が完結します。さらにAI-OCRが領収書を自動で読み取り、適格請求書発行事業者の番号を国税庁のデータベースと自動照合するため、インボイス制度への対応もスムーズです。利用中のSaaSなど定期支払いを一覧で可視化する機能もあり、不要な支払いの棚卸しに役立ちます。
※導入の流れには初期費用の支払いが含まれます(公式サイトの「ご導入の流れ」に記載)。料金の詳細・発行条件はpaild公式サイトの資料請求・問い合わせでご確認ください(2026年8月2日時点)。
国際ブランド
Visa
Bizプリカとpaildのちがいをざっくり比較
| 比較項目 | Bizプリカ | paild(ペイルド) |
|---|---|---|
| 提供会社 | TOMOWEL Payment Service株式会社(共同印刷グループ) | 株式会社ペイルド |
| 国際ブランド | Mastercard | Visa |
| 与信審査 | なし | なし(法人の本人確認のみ・書類提出不要) |
| 費用の考え方 | 初期費用・チャージ・発行・発送は無料。カード1枚につき月額150円(税別) | 導入の流れに初期費用あり。詳細は公式で要確認 |
| 申し込みの対象 | 事業法人はBizプリカ、非営利法人はBizプリカPLUS。個人事業主は不可 | 法人(詳細な条件は公式で要確認) |
| 得意なところ | 小口現金・仮払金・立替金の削減。会計/経費精算システムとの自動連携 | 電子帳簿保存法・インボイス対応(AI-OCR+国税庁DB照合)、SaaS支払いの可視化 |
| 公開されている導入実績 | 3,500社突破(同社調べ) | 5,000社突破 |
※Bizプリカの内容は2026年9月1日、paildの内容は2026年8月2日に、それぞれ公式サイトで確認したものです。料金・機能は改定されるため、最終的な比較は必ず公式の最新情報と見積もりで行ってください。
「三井住友カード ビジネスプリペイド」はサービス終了
かつて法人向けプリペイドカードとして広く使われていた三井住友カードの「ビジネスプリペイド」は、2023年7月31日をもって新規カード発行を終了し、さらに「三井住友VISAプリペイド」「三井住友VISAプリペイドe」「ANA VISAプリペイドカード」とあわせて2025年3月末日でサービス自体が終了しました。三井住友カード公式の告知によると、チャージは2024年9月末日で終了、Visa加盟店での利用終了日は2025年3月末日、未使用残高の払戻し受付は2025年4月1日〜7月末日で、いずれも受付は終了しています。
そのため、これから法人向けプリペイドカードを導入する場合は、上記のBizプリカやpaildなど現在も新規申し込みができるサービスを検討することになります。以前ビジネスプリペイドを利用していた企業も、これらのクラウド型サービスが主な移行先の候補となります。
※サービスの提供状況は変わることがあります。最新の取り扱い状況は必ず各社の公式サイトでご確認ください。
導入前に押さえたい2つの制度|インボイスと電子帳簿保存法
カード決済に切り替えると経費精算はぐっと楽になりますが、「カードにしたから書類の保存はいらない」わけではありません。むしろ、消費税と保存義務の2つの制度を理解しておかないと、後の税務調査で慌てることになります。ここは法人カードを選ぶうえで見落とされがちな論点なので、要点だけ整理しておきましょう。
カードの利用明細だけでは仕入税額控除を受けられない
国税庁は質疑応答事例で、クレジットカード会社が作成する請求明細書は、消費税法上の「請求書等」に該当しないと示しています。カード会社は課税資産の譲渡等を行った当事者ではなく、明細書には売り手(カード加盟店)の氏名・名称や登録番号が記載されないためです。したがって、カードの利用明細を保存するだけでは仕入税額控除の適用を受けられません。この場合は、実際に商品やサービスを提供したカード加盟店から受け取った適格請求書(インボイス)等を保存することで、控除が認められます。
つまり、法人カードを配っても従業員が受け取ったレシート・領収書を回収する業務は残るということです。だからこそ、領収書の画像をカード利用明細に自動でひも付けたり、登録番号を自動で照合したりする機能の有無が、導入効果を大きく左右します。
1万円未満は「少額特例」で帳簿のみの保存も可能
例外もあります。国税庁の案内する少額特例では、税込1万円未満の課税仕入れについて、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められます(インボイスの保存は不要)。対象になるのは、基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者です。1万円未満かどうかは1回の取引の税込金額で判定し、商品1つごとの金額では判定しません。
ただし、この特例は令和5年(2023年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日までの期間限定です。国税庁は、令和11年10月1日以後は課税期間の途中であっても少額特例の適用がなくなると案内しています。期限のある措置に運用を寄せすぎないことは、カード運用ルールを設計するうえで大事な視点です。
電子で受け取った領収書は電子のまま保存する
もう一つが電子帳簿保存法です。令和6年(2024年)1月1日以後、メールやWebサイトを通じて電子データでやり取りした注文書・契約書・領収書・請求書などは、電子データのまま保存することが義務づけられています(受け取った場合だけでなく、送った場合も対象)。従来の宥恕措置は令和5年12月31日をもって廃止されました。
その代わりに新たな猶予措置が設けられており、保存要件に従って保存できなかったことに所轄税務署長が相当の理由があると認め、かつ税務調査等の際にデータのダウンロードの求めに応じられる場合は、改ざん防止措置や検索機能といった要件を満たさなくても、データを保存しておけばよいとされています。ネット通販の領収書やSaaSの請求書はまさにこの電子取引データにあたるため、法人カードで支払う機会が多い会社ほど、証憑を電子で受け取って保存する仕組みが重要になります。
※ここで挙げた制度の詳細な適用要件・自社の当てはめは、国税庁の情報を確認のうえ、顧問税理士または所轄の税務署にご相談ください。
法人向けプリペイドカードを選ぶポイント
複数のサービスを比較する際は、次のような観点でチェックすると自社に合ったカードを選びやすくなります。
| 比較の観点 | 見るポイント | 備考 |
|---|---|---|
| 費用 | 月額・初期費用・発行手数料・チャージ手数料の有無 | 枚数が多いほど月額の合計に注意。初期費用の有無は必ず確認 |
| 課金の条件 | 何をもって「1枚」と数えるか(利用者の紐づけ・カードの状態) | 未使用カードが課金対象かどうかで年間コストが変わる |
| 与信審査 | 審査の有無・必要書類 | プリペイドは審査なしが基本。設立直後でも導入しやすい |
| 申し込みの対象 | 法人格の区分・個人事業主の可否 | 非営利法人は別カードのことがある。個人事業主は不可の場合も |
| 発行スピード・枚数 | 即時発行の可否・発行上限 | オンラインで即時発行できるサービスもある |
| 管理機能 | 利用明細のリアルタイム確認・上限設定・利用停止 | 不正利用・使いすぎの抑止に有効 |
| 会計連携 | 会計ソフトとの自動連携・証憑管理 | 経理業務の効率化に直結 |
| 電帳法・インボイス対応 | 領収書の電子保存・適格請求書発行事業者番号の確認 | 紙の保管や手作業の確認を減らせるか |
| 国際ブランド | Visa/Mastercardなど | 利用したい加盟店で使えるか |
| チャージ運用 | カード単位か、ウォレット(親残高)から配分するか | 枚数が多いほど、ウォレット方式のほうが運用が楽になりやすい |
法人向けプリペイドカードのよくある質問(FAQ)
Q. チャージした時点で経費になりますか?
A. 一般的には、チャージは「前払い(資産の移動)」にあたり、実際に決済した時点で費用として処理するのが基本的な考え方です。チャージ残高は未使用であれば会社の資産として残るためです。ただし、金額の重要性や自社の会計方針によって実務上の扱いは変わります。仕訳や消費税の取り扱いは、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください(制度の詳細は国税庁の情報が一次情報になります)。
Q. 設立したばかりの会社でも発行できますか?
A. 法人プリペイドカードは与信審査がないため、決算書の提出を求められないサービスが一般的で、設立直後でも導入しやすいのが特長です。paildは公式サイトで「登記簿原本など書類の提出は不要」とし、オンラインでの法人の本人確認のみで手続きが進む流れを案内しています。ただし、法人としての本人確認(郵送されるコードの入力など)は必要です。
Q. 個人事業主でも申し込めますか?
A. サービスによって異なります。たとえばBizプリカは、公式サイトのFAQで法人登記のない個人(個人事業主・フリーランス)は申し込めないと案内しています。また、事業法人向けの「Bizプリカ」と、一般社団法人・医療法人・学校法人などの非営利法人向けの「BizプリカPLUS」に分かれている点にも注意が必要です。申し込みの前に、自社の法人格が対象に含まれるかを必ず確認しましょう。
Q. 従業員に配って使いすぎが起きませんか?
A. プリペイドカードはチャージした残高を超えて使えないため、構造的に使いすぎが起きません。加えて、カードごとの利用上限の設定、利用時の通知メール、管理画面からの即時停止といった機能を備えるサービスが多く、ガバナンス面のリスクを抑えられます。
Q. 使えない支払いはありますか?
A. 国際ブランド付きプリペイドカードは加盟店で幅広く使えますが、一部の加盟店では利用できない場合があります(Bizプリカ公式も「一部ご利用頂けない加盟店もございます」と案内)。高速道路のETC、公共料金や通信費などの継続課金、ガソリンスタンドの一部端末などは、サービスによって可否が分かれやすい領域です。自社で必ず使いたい支払いがある場合は、導入前に個別に確認しておきましょう。
Q. 領収書はどう管理すればよいですか?
A. カード決済にしても、領収書・レシートの保存義務がなくなるわけではありません。国税庁は、カード会社が作成する請求明細書は消費税法上の請求書等に該当しないとしており、原則としてカード加盟店から受け取った適格請求書等の保存が必要です。あわせて、電子データで受け取った領収書は電子のまま保存するのが電子帳簿保存法の原則です。近年は、カード利用明細と領収書の画像を自動でひも付けたり、電子帳簿保存法に対応した形で保存したりできるサービスがあります。紙の回収・保管をやめたい場合は、この機能の有無が選定の分かれ目になります。
まとめ
法人向けビジネスプリペイドカードには、「不正利用のリスクが少ない」「全社員に簡単に配布できる」「経費精算を効率化できる」「仕入金額や支出をリアルタイムに把握できる」といったメリットがあり、中小企業を中心に導入が進んでいます。
かつて定番だった三井住友カードのビジネスプリペイドはすでにサービスを終了しており、現在はBizプリカやpaildといったクラウド型のサービスが主流です。選ぶときは、月額と初期費用に加えて「何をもって1枚と数えるか」という課金条件、自社の法人格が申し込み対象に含まれるか、そしてインボイス制度・電子帳簿保存法への対応まで見ておくと、導入後の手戻りを減らせます。手数料・機能は改定されるため、導入前には必ず公式サイトで最新の条件を確認したうえで、自社の規模や運用に合ったカードを選びましょう。










