2024年1月の能登半島地震をはじめ、近年も各地で大きな地震が相次いでいます。震度4を超える地震も日本のあちこちで発生しており、住宅の地震被害への備えへの関心は高まっています。
この記事ではマイホームの地震被害に備えるための保険である地震保険について解説します。とくに「国による再保険」という仕組みは理解しておいた方がよいので、少し掘り下げて解説します。なお、本記事の制度内容・金額は2026年6月時点のもので、最新の数値は財務省・日本損害保険協会の公式情報でご確認ください。
目次
大規模地震発生時の地震保険金支払額
最初に、近年発生した大規模地震で損害保険会社が支払った地震保険の支払総額を確認しておきましょう。東日本大震災が圧倒的なのは言うまでもありません。
能登半島地震(2024年1月)の地震保険の支払保険金は、日本損害保険協会の公表で約1,047億円(支払件数約12万7千件)に達し、地震保険の支払額としては過去6番目の規模となりました(2025年時点)。保険金の支払額からも被害の大きさがわかります。
東日本大震災:約1兆2,167億円
平成28年熊本地震:約3,621億円
能登半島地震:約1,047億円
阪神・淡路大震災:約783億円
これらの金額は地震による被害の規模を計る指標にもなりますが、地震保険に加入していたことで、生活再建のためのお金を受け取ることができた——その意義を計る指標でもあります。なお、阪神・淡路大震災当時は地震保険の世帯加入率が低く、被害規模に比べて支払額が小さくとどまっている点にも注意が必要です(現在は加入率が大きく高まっています)。
地震保険の勘違い
実は、「大規模地震が起こった場合、その被害は保険会社が保険金を支払える規模ではないので、地震保険に加入していても意味がない」と考えている人が一定数います。
その認識は正しくありません。もちろん、大規模地震への備え・保険は、1つの保険会社だけで対応できるようなものではありません。
仮に東日本大震災の規模の地震が首都圏直下で発生した場合、東日本大震災の数倍から数十倍の規模の被害が発生すると言われています。南海トラフ大地震の最大損害額も同様です。
実際、民間企業である保険会社がいつ起こるか予想できない地震のために、単独で1兆円を超える単位のお金を用意し続けることはできません。
したがって「大規模地震が起こった時に、保険会社だけで保険金を支払える規模ではない」という点は、確かにそのとおりです。ただし、それでも地震保険がきちんと機能するのには理由があります。次の「国による再保険」の仕組みがあるからです。
国による再保険の仕組み
地震保険は、保険会社の責任負担をあらかじめ決めておき、それを超える部分を保険会社に対して国が支払う仕組み(日本政府による再保険)で成り立っています。
地震大国である日本では、国全体で大規模地震に備える仕組みになっているのです。直接、国が保険を提供することは難しいため、保険会社を国がサポートすることで、民間企業の力だけでは提供できない地震保険という仕組みが成り立っています。
1回の地震等によって政府が支払うべき再保険金の総額は、毎年度、国会の議決を経た金額の範囲内とされています。財務省によると、現在その金額(政府の負担限度額)は11兆5,553億円で、民間保険責任額と合計した1回の地震等による保険金の総支払限度額は12兆円です(2025年4月時点)。
単純計算ですが、総支払限度額12兆円は東日本大震災(約1兆2,167億円)のおよそ10回分にあたります。「地震保険に加入していても意味がない」という後半部分の思い込みが勘違いであることがわかると思います。
なお、総支払限度額は「関東大震災級の地震が発生した場合でも支払保険金の総額がこの額を超えないように」決められており、被害想定の見直しに応じて適時改定されています。万一この限度額を超える規模の被害が出た場合は、保険金が削減されることがありますが、その判断は地震保険審査会の審議を参考に財務大臣が告示する仕組みになっています(東日本大震災では削減されることなく全額が支払われました)。
地震保険における保険会社は窓口会社に近い
総支払限度額12兆円のうち、政府の負担限度額は11兆5,553億円。巨大地震時の保険金の大半(約96%)を政府が支える計算になり、実質的には地震保険は日本政府が支えている保険だということがわかります。
実は、私たちが地震保険を契約しても、保険会社にはほとんど利益がありません。法律にもとづき、保険会社は地震保険で利益を得ない仕組み(ノーロス・ノープロフィットの原則)で運営されているためです。
保険会社から保険の勧誘やダイレクトメールで商品の案内を受けたことは誰しもあると思いますが、地震保険への加入を積極的に案内されたことはあるでしょうか?ほとんどないと思います。地震保険はその性質上・制度の仕組み上、保険会社にとって「売って儲ける」商品ではないからです。だからこそ、加入するかどうかは自分から検討する必要があります。
地震保険は家を建て替えるために入る保険ではない
地震保険に加入していても、新しくマイホームを建て直せるほどの保険金が受け取れるわけではありません。これは、地震保険の保険金額が火災保険の保険金額の30〜50%の範囲で設定する決まりになっているためです(1戸あたりの限度額は建物5,000万円・家財1,000万円)。このことから「地震保険に入っても意味がない」と勘違いしてしまう人がいますが、それは早計です。
マイホームが全壊しても、住宅ローンは残ります。今までと同じように返済を続けなければなりません。存在しない家のためのローンを払い続けるのは、非常につらいものです。そんなときに、住宅の3割〜5割相当の保険金を受け取れる地震保険に加入しているかどうかは、生活再建の大きな分岐点になりかねません。地震保険は「家を建て直すための保険」ではなく、当面の生活と住宅ローンの負担を支えるための保険と理解しておきましょう。
地震保険の補償額(損害の4区分)
地震保険の保険金は、損害の程度に応じて次の4区分で支払われます(2017年1月以降の契約。判定は日本損害保険協会の基準にもとづきます)。
| 損害の程度 | 支払われる保険金 | 備考 |
|---|---|---|
| 全損 | 地震保険金額の100% | 時価が限度 |
| 大半損 | 地震保険金額の60% | 時価の60%が限度 |
| 小半損 | 地震保険金額の30% | 時価の30%が限度 |
| 一部損 | 地震保険金額の5% | 時価の5%が限度 |
地震保険は単独では契約できず、火災保険とセットで加入します。保険料は建物の構造(イ構造・ロ構造)や所在地によって異なり、耐震性能に応じた免震建築物割引・耐震等級割引・耐震診断割引・建築年割引(10〜50%)といった割引制度も用意されています。
地震保険料は所得控除の対象になる
支払った地震保険料は、地震保険料控除として所得から差し引くことができます。控除できる上限は、所得税で最高5万円、住民税で最高2万5,000円です(財務省)。年末調整や確定申告の際に、保険会社から届く控除証明書を使って申告しましょう。万一への備えだけでなく、毎年の税負担を軽くする効果もある点は覚えておきたいポイントです。
まとめ
地震保険は、国による再保険という仕組みに支えられ、巨大地震時でもきちんと機能するように設計された制度です。保険金は家を建て直すためのものではありませんが、住宅ローンを抱えた家計が地震後の生活を立て直すための、心強い備えになります。地震保険は黙っていても保険会社から積極的に勧誘されることが少なく、加入せずに終わってしまいがちです。相次ぐ自然災害を教訓に、地震保険への加入を今一度検討してみてください。











