銀行でリスク管理やコンプライアンス、マネー・ローンダリング(マネロン)対策を担当してきた人の移り先は、大きく3つあります。他の銀行やネット銀行の管理部門、資金移動業者など銀行以外の金融機関、それに事業会社のコンプライアンス部門や内部監査です。監査法人やコンサルティング会社で、金融機関に助言する側に回る道もあります。
金融庁は2026年3月にマネロン対策のガイドラインを改正しました。2028年6月には国際的な審査の現地調査も予定されていて、対策を強める取り組みはこれからも続きます。移った先で評価されるのは、部署の名前よりも、どのリスクをどこまで自分で管理してきたかです。
金融庁のガイドラインでは、管理部門は営業部門を監視しながら支える
金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(2026年3月31日改正)は、銀行の組織を3つの防衛線に分けて説明しています。3つの防衛線とは、営業部門、コンプライアンスやリスク管理などの管理部門、内部監査部門の役割を分ける考え方のことです。
第1の防衛線(以下、第1線)は営業店や営業部門で、顧客と接する中でマネロンのリスクに最初に向き合います。第2の防衛線(第2線)は管理部門で、営業部門から独立した立場で監視しながら、情報の提供や相談への対応で営業部門を支えます。第3の防衛線は内部監査部門で、第1線と第2線が機能しているかを検証します。
ガイドラインは、第2線の管理部門には営業部門の業務についての知見と、その業務に潜むリスクへの理解の両方が求められるとしています。マネロン対策を担当する部門のほか、取引を監視するシステムの部門や、専門人材を確保する人事部門も管理部門に入ります。支店で働いた経験も管理部門での経験も、転職先で自分の強みとして説明できます。
マネロン対策は2024年3月で終わったわけではない
金融庁は2021年4月、ガイドラインに沿った基礎的な体制づくりを2024年3月末までに終えるよう金融機関に求めました。期限の時点での完了率は99%で、対応はもう済んだように見えます。しかし金融庁の「マネー・ローンダリング等及び金融犯罪対策の取組と課題(2026年7月)」によると、検査の焦点はその後、整えた体制が実際に機能しているかを確かめる有効性検証に移りました。
同じ報告書は、検証に必要な人員や専門性を確保できていない金融機関もあったと指摘しています。また金融庁は、専門人材が限られ、人手に頼るやり方には限界があるとして、新しい技術の活用を検討するよう金融機関に求めるようになりました。国際機関FATF(金融活動作業部会)による日本への第5次審査では、2028年6月に現地調査が予定されています。
詐欺の被害金を移す手段として、インターネットバンキングなどの金融サービスが悪用されていることも、報告書は指摘しています。口座の不正利用を見つけて止めることも、マネロン対策と並んで管理部門の大きな仕事になっています。
疑わしい取引の届出は、銀行以外の業態で大きく伸びている(当サイト集計)
銀行などの事業者は、犯罪で得たお金の疑いがある取引を見つけたら、所管の行政庁に届け出なければなりません。警察庁の「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)」から、業態別の届出の件数を2021年と2025年で比べると、次のとおりです。
| 業態 | 2021年 | 2025年 | 4年間の伸び | 2025年の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 銀行等 | 390,381件 | 690,555件 | 約1.8倍 | 67.7% |
| 信用金庫・信用協同組合 | 18,461件 | 27,763件 | 約1.5倍 | 2.7% |
| 金融商品取引業者 | 19,718件 | 32,342件 | 約1.6倍 | 3.2% |
| 貸金業者 | 35,442件 | 102,577件 | 約2.9倍 | 10.1% |
| 資金移動業者 | 10,499件 | 45,180件 | 約4.3倍 | 4.4% |
| 暗号資産交換業者 | 13,540件 | 44,335件 | 約3.3倍 | 4.3% |
| 全業態の合計 | 530,150件 | 1,019,405件 | 約1.9倍 | 100% |
※警察庁「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)」の表3-1(業態別の疑わしい取引の年間通知件数)と図3-3の数値をもとに、当サイトが伸び率と割合を計算したもの(2026年11月5日確認)。件数は、各業態の所管行政庁から警察庁に通知された件数です。業態は一部を抜き出しています。

件数で見ると、届出の約3分の2は今も銀行等から出ています。一方、4年間の伸びは資金移動業者が約4.3倍、暗号資産交換業者が約3.3倍、貸金業者が約2.9倍で、いずれも銀行等の約1.8倍を上回りました。届け出るかどうかを判断する仕組みや担当者は、銀行以外の業態でも必要になっています。
金融庁の2026年7月の報告書は、国家公安委員会の犯罪収益移転危険度調査書(2025年11月)を引いています。そのうえで、預金を扱う金融機関、資金移動業者、暗号資産交換業者を、他の業態より危険度が相対的に高い取引を扱う業態に挙げています。銀行で取引の監視や届出の判断をしてきた経験は、こうした業態でも生かせます。
移り先ごとに、同じ経験でも求められる中身が変わる
他の銀行やネット銀行では、管理部門の仕事をそのまま続けられる
いちばん移りやすいのは、同じ銀行業界の管理部門です。ガイドラインはすべての預金取扱金融機関に共通なので、規程づくりや取引の監視、届出の判断の経験は、銀行が変わってもほぼ同じ言葉で説明できます。後で紹介する公開インタビューの4件も、移った先はすべて銀行です。
銀行の管理部門の求人でも、仕事の中身は企画、日々の取引の監視、監査とさまざまです。海外拠点を含めたグループ全体を見る仕事もあります。応募する前に、担当する範囲を求人票の仕事内容で確認してください。
資金移動業者や暗号資産交換業者では、その会社の商品に合ったマネロン対策を考える
資金移動業者とは、銀行以外で送金を扱うことを認められた事業者のことです。送金できる上限によって第一種から第三種に分かれます。仕組みは資金移動業者の海外送金の記事で、銀行との違いとあわせて紹介しています。
資金移動業者や暗号資産交換業者も、銀行と同じ犯罪収益移転防止法にもとづいて疑わしい取引を届け出ます。ただ、扱うのはスマートフォンでの送金や暗号資産で、銀行と同じ取引ばかりではありません。銀行の仕組みをそのまま持ち込んでも合わないことがあるため、その会社の商品にどんなリスクがあるかを改めて洗い出す力が問われます。
事業会社のコンプライアンス部門や内部監査部門では、扱う法律が広がる
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は、コンプライアンス推進担当の仕事を、不正を防ぐための社内の体制を整え、運用することと説明しています。新卒で配属されてそのまま担当する例はほとんどなく、大半が社内の他部門からの異動か中途採用だとしています。
job tagの内部監査人のページにも、社内異動や監査業務の経験者の中途採用が多く、30〜50歳代が中心だと書かれています。関連資格には内部監査士とCIA(公認内部監査人)が挙がっています。銀行法などの知識がそのまま使える場面は減るため、移る先の業界の法律や規制を新たに学ぶ必要があります。
監査法人やコンサルティング会社では、金融機関に助言する立場になる
監査法人やコンサルティング会社には、金融機関の規制対応やマネロン対策を支援する部門があります。銀行の中で当局の検査やガイドラインへの対応をしてきた人は、助言する相手の銀行がどこで手間取るかを、内側で働いた経験から説明できます。
job tagの統計では、内部監査人の求人倍率が1倍を超えていた
job tagには、令和7年賃金構造基本統計調査をもとにした年収と、ハローワークの令和7年度の求人統計が職業ごとに載っています。移り先の候補になる3つの職業を比べると、次のとおりです。
| 職業(job tag) | 対応する職業分類 | 年収 | 平均年齢 | 求人賃金(月額) | 有効求人倍率 |
|---|---|---|---|---|---|
| コンプライアンス推進担当 | 法務・広報・知的財産事務の職業 | 528.7万円 | 44.0歳 | 26.9万円 | 0.46倍 |
| 内部監査人 | 総務事務員 | 525.2万円 | 44.9歳 | 23.7万円 | 1.14倍 |
| 経営コンサルタント | その他の経営・金融・保険の専門的職業 | 1,134.6万円 | 39.4歳 | 29.5万円 | 0.40倍 |
※年収と平均年齢は令和7年賃金構造基本統計調査、求人賃金と有効求人倍率はハローワークの令和7年度の全国の値(いずれも厚生労働省 job tag の各職業ページで2026年11月5日確認)。求人賃金はハローワークに出された求人票の金額で、人材紹介会社などの求人は含みません。
有効求人倍率は、求人の数を求職者の数で割った値です。内部監査人は1.14倍で、求人のほうが求職者より多い状態でした。コンプライアンス推進担当は0.46倍で、求人1件に対して求職者が2人以上います。
表の年収は、コンプライアンスや内部監査の仕事だけを集計した数字ではありません。job tagの統計は、その職業が属する職業分類の単位でまとめられています。コンプライアンス推進担当は法務や広報の事務全体、内部監査人は総務事務員全体の数字なので、金融機関の管理部門の水準とは別に考える必要があります。統計の読み方は銀行の本部企画の経験を活かせる転職先の記事でも、企画職を例に説明しています。
公開インタビューに見る、リスク管理やマネロン対策の経験者の転職事例
採用企業が公開している社員インタビューや金融グループの広報記事から、銀行でリスク管理やマネロン対策、監査に関わった人の転職事例を4件紹介します。個人名は出さず、記事の内容を要約しています。
- メガバンクのリスク管理部門から、別のメガバンクのリスク統括部へ 本社のリスク管理部門で流動性リスクの指標を計測していた人が、三井住友銀行に移りました。転職したのは、リスク管理の仕組みそのものを考える企画の仕事がしたかったからです。今は流動性リスク管理の企画を担当しています。前の職場ではリスク管理を営業のブレーキ役ととらえていました。そのため、収益やコストも意識する転職先の考え方に驚いたそうです。
- メガバンクの監査部から、別のメガバンクのコンプライアンス監査へ 法人営業を約10年経験したあと監査部に異動し、FATFの審査に対応する行内のプロジェクトにも参加した人です。30代後半で三井住友銀行の監査部に移りました。所属はマネロン対策や振り込め詐欺対策の仕組みが機能しているかを検証するグループです。入社して半年で、コンプライアンス部門を対象にした監査のリーダーを任されています。
- 地方銀行の法人営業からネット銀行を経て、メガバンクの金融犯罪対策部へ 地方銀行の法人営業から大学院に進み、ネット銀行を経て、2022年2月に三井住友銀行に入った人です。今はAML(マネロン対策の英語の略)金融犯罪対策部のグループ長で、公認AMLスペシャリストの資格を持っています。同じ記事には、警察で知能犯の捜査をしたあと、ネット銀行のマネロン対策を経て2023年11月に入行した人も出てきます。
- メガバンクの市場部門から日本銀行を経て、地方銀行のリスク統括部へ 新卒でメガバンクに入り本部の市場部門などを経験した人が、大学院で学んだあと日本銀行に移りました。日本銀行では国際的な金融規制の議論や金融機関のモニタリングを担当し、金融庁への出向も経験しています。日本銀行に11年勤めたあと、結婚を機に2021年に西日本シティ銀行に入り、2年目に部署で2番目の役職に就いています。
事例の出典:三井住友銀行 キャリア採用情報「社員インタビュー」リスク統括部・監査部(いずれも掲載日の記載なし・所属はインタビュー当時のもの・2026年11月5日確認 https://www.smbc-careers.com/interview/interview23.html https://www.smbc-careers.com/interview/interview19.html )/三井住友フィナンシャルグループ「DX-link」詐欺被害を阻止しお客さまの財産を守る。三井住友銀行のマネーロンダリング対策最前線(2025年10月9日掲載・所属と肩書は取材当時のもの・2026年11月5日確認 https://www.smfg.co.jp/dx_link/article/0206.html )/西日本シティ銀行 キャリア採用サイト「業務紹介 リスク管理」(掲載日の記載なし・2026年11月5日確認 https://www.ncbank.co.jp/saiyo_joho/career/works/risk-management/ )
4件とも移った先は銀行で、4人とも最初は法人営業や市場部門で働いてから、管理部門や監査、日本銀行での仕事に移っています。営業や市場部門で働いた経験は、ガイドラインが第2線に求める、管理する相手の業務への理解にもつながります。
職務経歴書には、担当したリスクと関わった検証の範囲を書く
管理部門の仕事は成果が数字に出にくく、職務経歴書が抽象的になりがちです。担当したリスクの種類、改定に関わった規程の数、見直した取引監視の検知条件、当局の検査や日本銀行の考査への対応、有効性検証での役割を、それぞれ具体的に書いておきましょう。監査の経験がある人は、監査の対象部署と自分の立場も書き添えると、経験の中身が伝わります。
審査部門で与信の判断に関わった経験もあわせて書くなら、融資・審査の経験を活かせる転職先の記事が参考になります。保証協会や事業会社の与信管理に向けた伝え方を紹介しています。
制度や統計、各社の採用情報は改正・改定されることがあるため、応募する前に各機関と各社の最新情報で確かめてください。
参考・出典:金融庁「金融機関におけるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策について」(「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」2026年3月31日改正、「マネー・ローンダリング等及び金融犯罪対策の取組と課題(2026年7月)」を掲載)/警察庁 JAFIC「犯罪収益移転防止に関する年次報告書」(令和7年)/厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「コンプライアンス推進担当」/同「内部監査人」/同「経営コンサルタント」(いずれも2026年11月5日確認)




