銀行の窓口や後方事務で働いてきた経験は、他の銀行や保険会社の事務、事業会社の一般事務・経理事務・営業事務で生かせます。現金や伝票を1円単位で照合し、本人確認や諸届を規定どおりに処理してきた正確さは、どの事務職でも求められる力だからです。
ただし、移りやすさは移り先によって大きく違います。ハローワークの令和7年度の統計では、銀行等の窓口事務の有効求人倍率が4.01倍なのに対し、一般事務は0.29倍でした。事務の経験があれば一般事務へ簡単に移れる、とは言えない数字です。
窓口・後方事務の経験は、job tagの仕事内容で言葉にできる
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は、銀行等窓口事務を、金融機関の窓口で入出金や送金、両替、口座開設や各種の変更手続き、相談業務を行う仕事と説明しています。営業時間が終わると、紙幣や硬貨、小切手の帳尻を合わせて一日の取引高を計算します。
同じページのタスク一覧では、「現金、小切手などを数え、金額と伝票の記載を確認する」の実施率が98.2%でした。窓口で働く人のほとんどが、金額と書類を突き合わせる作業を毎日しています。応募書類では、この作業を処理件数や正確さとして書くと伝わります。
job tagは、窓口の役割がネットバンキングやフィンテックの広がりで縮小しつつある一方、振り込め詐欺の防止など高齢のお客さまへの対応が増えているとも書いています。後方事務で口座の不正利用や本人確認の手続きを担当した人は、その経験も具体的に書けます。
移り先は、金融機関の事務と事業会社の事務に分かれる
他の銀行や保険会社の事務は、経験者の中途採用が多い
job tagによると、銀行等窓口事務の中途採用は窓口業務の経験者が多く、パートタイマーや派遣スタッフとして働く人もいます。同じ窓口の仕事を、勤務地や勤務時間を変えて続ける道があるということです。後で紹介する事例にも、銀行から別の銀行の窓口へ移った人がいます。
損害保険事務は、job tagで銀行等窓口事務に似た職業として挙げられています。自動車事故や火災で損害を受けた契約者から連絡を受け、保険金の請求の受付から支払いまでを担当する仕事です。事故の状況を正確に聞き取り、必要な書類をそろえてもらう点は、窓口での手続きと共通します。
事業会社の一般事務・経理事務・営業事務は、求められる経験が違う
一般事務は、文書の作成や伝票の作成と管理、データ入力など、社内の決まった手順に沿った事務を幅広く担当する仕事です。job tagは、定型的な事務は機械化や自動化、外部への委託が進んでいると書いています。銀行の事務経験は、正確さと手順を守る力として評価されます。
経理事務は、伝票を起こして帳簿に記録し、月次や年次の決算書類を作る仕事です。job tagには、中途採用では決算や財務にかかわる業務の経験が求められる傾向があると書かれています。窓口での現金の出納は経理の仕事と重なる部分がありますが、決算の経験と同じには扱われません。
営業事務は、営業担当者の指示を受けて見積書や納品書を作り、顧客からの電話やメールに対応して営業活動を支える仕事です。銀行で融資や渉外の担当者が集めた書類を確認し、手続きを進めてきた経験は、この仕事の進め方と近いところがあります。
当サイト試算 ハローワークの求人1件に何人の求職者がいるか
job tagの職業別のページには、ハローワークの令和7年度の求人賃金(月額)と有効求人倍率が載っています。有効求人倍率は求人の数を求職者の数で割った値です。当サイトでは、この逆数を取って求人1件あたりの求職者数を出し、月額の求人賃金を12倍して年額に直しました。
| 職業(job tag) | 求人賃金(月額) | 年額に直すと(×12) | 有効求人倍率 | 求人1件あたりの求職者 |
|---|---|---|---|---|
| 銀行等窓口事務 | 19.5万円 | 234.0万円 | 4.01倍 | 約0.2人 |
| 損害保険事務 | 25.8万円 | 309.6万円 | 1.91倍 | 約0.5人 |
| 営業事務 | 23.8万円 | 285.6万円 | 1.31倍 | 約0.8人 |
| 受付事務 | 22.2万円 | 266.4万円 | 0.96倍 | 約1.0人 |
| 経理事務 | 25.2万円 | 302.4万円 | 0.55倍 | 約1.8人 |
| 一般事務 | 21.6万円 | 259.2万円 | 0.29倍 | 約3.4人 |
※求人賃金と有効求人倍率は、厚生労働省 job tag の各職業ページに掲載された令和7年度のハローワーク求人統計(全国・2026年11月1日確認)。年額は月額を12倍しただけで、賞与や残業代は含みません。求人1件あたりの求職者は「1÷有効求人倍率」で計算した当サイトの試算です。ハローワーク以外の求人サイトや人材紹介の求人は含まれません。

一般事務は求人1件に約3.4人の求職者がいる計算で、6つの職業の中でいちばん競争が激しい結果でした。一方、銀行等の窓口事務は求人のほうが多く、経験者が同じ窓口の仕事を探す場合は選べる求人が多いことが分かります。
求人賃金を比べると、経理事務と損害保険事務は月25万円台で、窓口事務より月6万円ほど高くなっています。年額に直すと約68万〜76万円の差です。ただし求人賃金は求人票に書かれた金額で、実際に支払われた賃金とは違う点に注意が必要です。
job tagの年収は、窓口事務と経理事務で同じ数字が出る
job tagには、賃金構造基本統計調査をもとにした年収も載っています。令和7年調査の年収は、銀行等窓口事務が512.2万円、経理事務も512.2万円で、就業者数(令和2年国勢調査)もどちらも152万3,600人と表示されます。
数字が一致するのは、job tagの統計データが個々の職業ではなく、その職業が属する主な職業分類に対応した値だからです。job tagのページにも、必ずしもその職業だけの統計ではないと注記されています。窓口から経理へ移ると年収が変わらない、という意味には読めません。
同じ統計で一般事務の年収は541.4万円、営業事務と損害保険事務は525.1万円でした。いずれも幅広い職業をまとめた平均なので、移り先の年収を考えるときは求人票の金額と、その会社の賃金規程を個別に確かめてください。
資格は、窓口で取ったものと移り先で求められるものに分けて考える
job tagが銀行等窓口事務の関連資格に挙げているのは、厚生労働省が定める技能検定の金融窓口サービス技能士と、民間の銀行業務検定です。入職後は証券外務員と保険募集人の資格を取ることが望まれ、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格もあると役に立つと書かれています。金融窓口サービス技能検定の試験は、金融財政事情研究会が実施しています。
このうち証券外務員と保険募集人は、勤め先の会社を通じて登録して使う資格です。銀行で取った外務員資格が証券会社でそのまま通用するかどうかは、銀行の個人営業の経験を活かせる転職先の記事で説明しています。
事業会社の経理事務へ移りたい人には、job tagが関連資格に挙げる日商簿記検定が目安になります。日本商工会議所は簿記3級を、業種や職種にかかわらずビジネスパーソンが身につけておくべき基本の知識と位置づけています。一般事務では、表計算ソフトの資格(MOS)や秘書検定が関連資格に挙がっています。
窓口・事務を経験した人が移った3件の事例
採用企業が公開している社員インタビューから、銀行の窓口で働いていた人や、銀行の正社員だった人の事例を3件紹介します。個人名は出さず、記事が公開された時点の内容を要約しています。
- 銀行の窓口から、別の銀行の窓口へ 大学卒業後に入った銀行の小規模な営業店2か店で、約5年半にわたり窓口業務全般を担当した人です。2か店目ではチームリーダーも務め、2024年に三菱UFJ銀行へ中途入行しました。人員が少なく負担が大きかったことが転職の理由で、入行後は4日間の導入研修を経て、都心の支店で入出金や口座開設の窓口を担当しています。
- 地方銀行の窓口から、金融機関向けシステムの導入支援へ 2012年から地方銀行で主に窓口を担当し、2016年に信託銀行で投資顧問業務に移った人が、2020年5月にシステム会社へ中途入社しました。前職でシステム導入のプロジェクトに利用者側として関わったことがきっかけで、今は金融機関に資産運用システムを導入する手伝いをしています。IT用語を学び直す苦労もあったそうです。
- 銀行の正社員から、グループの人材会社に登録して窓口へ 銀行の正社員として働いていた人が、家事や子育ての時間を取るため、転居を機にりそなグループの人材会社に登録し、りそな銀行の営業店で窓口を担当するようになりました。平日に休みがある勤務の形を選んでいます。記事には前職で担当していた業務は書かれていません。
事例の出典:三菱UFJ銀行 キャリア採用サイト「MUFG Circle」(2025年9月19日公開・所属と内容は取材当時のもの・2026年11月1日確認 https://www.mysite.bk.mufg.jp/career/circle/article17/ )/シー・エス・エス・ホールディングス 採用サイト「社員インタビュー」(2025年4月1日公開・2026年11月1日確認 https://holdings.css-net.co.jp/recruit/people/interview05 )/りそなビジネスサービス「先輩インタビュー」(掲載日の記載なし・2026年11月1日確認 https://www.resona-bs.com/interviews/101 )
3件のうち2件は、窓口の仕事そのものは続けながら、勤め先や働き方を変えています。窓口の経験者を求める求人が多いことは、上の試算の有効求人倍率とも合っています。もう1件は、利用者として触れたシステムの経験を足がかりに、金融の知識を生かせる別の職種へ移った例です。
応募書類では、処理した件数と正確さを数字で示す
窓口や後方事務の経験は、成果が売上の数字で表れにくい仕事です。1日に受け付けた件数、担当した手続きの種類、現金の過不足を出さなかった期間など、数えられるものを職務経歴書に書いておくと、事務職の採用担当者に仕事の正確さが伝わります。
退職の理由によって、雇用保険の基本手当を受け取れる時期が変わります。次の勤め先が決まる前に辞める人は、自己都合退職と会社都合退職の違いを読んでから退職日を決めてください。辞めた後に国民年金へ切り替える手続きは、退職後の国民年金の手続きの記事で紹介しています。
求人の統計や試験の制度は年度ごとに見直されるため、応募や受験の前に各機関の最新情報で確かめてください。
参考・出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「銀行等窓口事務」/同「一般事務」/同「経理事務」/同「営業事務」/同「損害保険事務」/同「受付事務」/金融財政事情研究会「技能検定 総合案内」/日本商工会議所「簿記3級」(いずれも2026年11月1日確認)




