銀行の市場部門で有価証券の運用や為替の取引、ALM(資産と負債の総合管理)を担当してきた人の主な転職先は、4つあります。運用会社(アセットマネジメント会社)、年金基金や信託銀行などの機関投資家、証券会社や保険会社、事業会社の財務部門です。
どの転職先でも、中途採用では、市場で扱った商品と金額、任されていたリスクの範囲が問われます。投資信託の純資産総額は2020年末からの5年で約1.7倍に増えています。ただし、銀行の自己資金を運用する仕事と、顧客から預かった資金を運用する仕事では、求められることが違います。
銀行の市場部門の仕事は、自己資金の運用、顧客向けの取引、ALMに分かれる
ALMとは、資産と負債の総合管理(Asset Liability Management)のことです。銀行は預金で集めたお金を貸出や有価証券で運用しているため、金利が動くと、受け取る利息と支払う利息の差が変わります。その変化を見通して、資産と負債の金額や期間の組み合わせを調整するのがALMの仕事です。
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、銀行で自社の利益のために売買する人はプロップディーラー、顧客の注文を受けて取引する人はカスタマーディーラーと呼ばれます。銀行の市場部門の仕事は、前者にあたる自己資金の運用、後者にあたる企業や個人の為替取引への対応、ALMの3つに分かれます。
転職先では、この3つのどれを担当してきたかによって、評価される点が変わります。運用会社では投資判断の経験が、事業会社の財務部門では為替や金利のリスクを管理した経験が重視されます。職務経歴書では、担当した仕事をこの3つに分けて書くと伝わりやすくなります。
転職先ごとに、生かせる経験と新たに求められることが違う
運用会社では、顧客から預かった資金を運用し、その結果を説明する
job tagによると、ファンドマネージャーは投資信託会社や投資顧問会社、機関投資家などで資金の運用を担当し、運用チームの責任者を務めます。仕事には運用方針の策定や銘柄の選定のほか、運用報告書などで投資家に運用状況を説明することも含まれます。
外資系の運用会社は新卒採用をほとんどせず、主に日系の運用会社で実績を出した人を中途採用しています。ファンドマネージャーは他社に移っても同じように働ける専門職のため、中途採用の需要があります。転職する人は、一人で運用を任せられるようになった若手(ジュニアクラス)が中心です。
銀行の自己資金を運用する場合、結果を報告する相手は経営陣です。運用会社では、年金基金などの顧客に運用方針と実績を説明する場面が増えます。後で紹介する事例でも、地方銀行から運用会社に移った人が、顧客との打ち合わせは前の職場になかった仕事だと話しています。
年金基金や信託銀行では、大きな資産の配分と管理に関わる
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は運用の大半を外部の運用会社に委託していて、職員は委託先の評価や資産配分の調整、先物の売買などを担当しています。資産の管理を専門にする信託銀行には、顧客から預かって管理している債券を証券会社などに貸し出して収益を得る、レンディングという業務があります。どちらも、市場で債券や株式を扱ってきた経験が前提になる仕事です。
証券会社や保険会社では、売買の実績やリスクを見積もる考え方を生かせる
job tagのディーラーのページによると、大手の金融機関は新卒から自社で育てることが多い一方、外資系や中小の金融機関では中途採用も多く、ディーラーとしての実績が評価されます。銀行で債券や為替を売買してきた人は、その実績を証券会社などのディーリング部門でもそのまま生かせます。
保険会社に移る例もあります。後で紹介する事例には、銀行のALMと証券会社を経て損害保険会社の営業に移った人がいます。銀行と証券会社で身についた、最悪の場合を想定して備えを考える習慣が、保険の提案に役立っていると話しています。
事業会社の財務部門では、為替と資金調達のリスクを管理する
海外と取引する事業会社の財務部門には、為替の変動に備える仕事があります。東レのキャリア採用ページでは、財務部財務課の仕事として、為替ポジション(外貨建ての資産と負債の差額)の管理、資金調達、資金と有価証券の管理が紹介されています。資金調達では、金利の動きを見ながら金融機関と条件を交渉します。銀行の側で金利や為替を扱ってきた経験は、こうした場面で生かせます。
投資信託の純資産総額は、5年で約1.7倍に増えた(当サイト集計)
資産運用業協会(2026年4月に投資信託協会と日本投資顧問業協会が統合して発足)の統計から、投資信託(公募と私募の合計)の純資産総額を年末ごとに並べると、次のようになります。
| 時点 | 投資信託の純資産総額(公募+私募) | 2020年末を1としたとき |
|---|---|---|
| 2020年末 | 約258.0兆円 | 1.00 |
| 2021年末 | 約289.3兆円 | 1.12 |
| 2022年末 | 約279.2兆円 | 1.08 |
| 2023年末 | 約325.8兆円 | 1.26 |
| 2024年末 | 約380.7兆円 | 1.48 |
| 2025年末 | 約437.8兆円 | 1.70 |
| 2026年9月末 | 約495.1兆円 | 1.92 |
※資産運用業協会「投資信託全体の純資産総額(年次)」と「投資信託の全体像(2026年9月末)」の数値(百万円単位)をもとに、当サイトが兆円単位に丸め、2020年末に対する倍率を計算したもの(2026年11月7日確認)。

純資産総額には、新しく入ってきた資金と、値上がりによる増加の両方が含まれます。同じ協会の「投資信託概況」で公募投資信託(契約型)の資金の出入りを見ると、2025年10月から2026年9月までの12か月で、差し引き約23.5兆円の資金が入っていました。12か月とも流入が流出を上回っています。
個人の資金が投資信託に向かう背景の一つが、2024年に始まった新しいNISAです。非課税で投資できる枠については、新NISAの非課税の仕組みをご覧ください。
CMAの合格者は、勤務先の業種別で銀行が最も多い
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)とは、日本証券アナリスト協会の講座を受講して第1次・第2次の試験に合格し、実務経験などの要件を満たすと認定される資格のことです。job tagによると、ファンドマネージャーのほぼ全員がCMAを持っています。事実上、必須の資格です。
第2次試験の受験者数と合格者数は、直近5年で次のとおりです。
| 試験の年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 2022年 | 3,405名 | 1,865名 | 54.8% |
| 2023年 | 2,548名 | 1,189名 | 46.7% |
| 2024年 | 2,556名 | 1,139名 | 44.6% |
| 2025年 | 2,522名 | 1,121名 | 44.4% |
| 2026年 | 2,317名 | 973名 | 42.0% |
※日本証券アナリスト協会「CMA2次レベル試験データ」(2026年11月7日確認)。2022年は旧プログラムに基づく試験です。
協会の資料によると、2026年の第2次試験の合格者は、勤務先の業種別で銀行、証券会社、生命保険会社の順に多くなっています。2026年春の第1次試験でも、合格者の構成比は銀行が最も高くなりました。CMAは多くの銀行員が目指す資格です。そのため、持っているだけでは他の応募者と差がつきません。
CMAの認定には、通算3年以上の実務経験が必要です。協会によると、実務経験には金融機関での証券投資や企業融資のほか、事業会社の財務管理や分析も含まれます。2026年の第2次試験の受験料は17,500円(消費税込み、別に手数料200円)でした。
job tagの年収は職業分類ごとの数値で、個々の職業の給与水準とは限らない
job tagの各職業のページには、賃金構造基本統計調査(令和7年)をもとにした年収と、ハローワークの求人統計(令和7年度)が載っています。ただし、数値はその職業が属する職業分類の単位でまとめられています。転職先の候補になる3つの職業を比べると、次のとおりです。
| 職業(job tag) | 統計の元になる職業分類 | 年収 | 平均年齢 | 有効求人倍率 |
|---|---|---|---|---|
| ファンドマネージャー | その他の経営・金融・保険の専門的職業 | 1,134.6万円 | 39.4歳 | 0.40倍 |
| 証券アナリスト | その他の経営・金融・保険の専門的職業 | 1,134.6万円 | 39.4歳 | 0.40倍 |
| ディーラー | その他の販売類似の職業 | 664.5万円 | 40.4歳 | 2.25倍 |
※年収と平均年齢は令和7年賃金構造基本統計調査、有効求人倍率はハローワークの令和7年度の全国の値(いずれも厚生労働省 job tag の各職業ページで2026年11月7日確認)。
ファンドマネージャーと証券アナリストは同じ職業分類に入るため、数値がまったく同じです。ディーラーは販売に近い職業の分類で集計されています。そのため、有効求人倍率の2.25倍は、為替や債券の売買を担当する人の求人の多さを示すものではありません。年収を比べるときは、統計がどの範囲の人を集計しているかを確認してください。
公開インタビューの4人は、運用会社や年金、保険の分野に移った
採用企業や公的機関が公開している社員・職員のインタビューから、銀行の市場部門で働いた人の転職事例を4件紹介します。個人名は出さず、記事の内容を要約しています。
- 地方銀行の有価証券運用から、運用会社のファンドマネージャーへ 中国地方の地方銀行に10年勤め、支店の法人営業のあと、東京で5年間、顧客向けの為替ディーラーと銀行の自己資金の運用を担当した人です。2020年にりそなアセットマネジメントに入り、公的年金や企業年金の資金を運用しています。顧客に運用方針や実績を説明する打ち合わせは、前の職場ではなかった仕事だと話しています。
- 地方銀行の有価証券運用から、運用会社を経て資産管理専門の信託銀行へ 地方銀行で自己資金を運用するファンドマネージャーを務め、入行11年目に運用会社に移った人です。その後、2022年に日本マスタートラスト信託銀行に入りました。今は国内債券のレンディング業務のうち、資金調達を担当するチームをまとめています。
- 銀行のファンドマネージャーから、公的年金を運用するGPIFへ 前の職場の銀行で、GPIFから委託されたファンドの運用にも関わった人です。GPIFでは、資産配分を基本ポートフォリオ(GPIFが定めた配分の目安)に戻す計画づくりと、職員が自ら行う先物の運用を担当しています。運用の経験は役立つ一方、約250兆円という規模ならではの難しさもあると話しています。
- 銀行のALMから証券会社を経て、損害保険会社の営業へ 銀行でALMを担当し、その後、証券会社で株式や債券を発行したい企業と投資家をつなぐ仕事をした人です。東京海上日動に入り、代理店である金融機関を担当する営業部門で、損害保険の提案に関わっています。
事例の出典:りそなグループ 採用サイト「インタビュー T.I. りそなアセットマネジメント インデックス運用部」(掲載日の記載なし・内容は取材当時のもの・2026年11月7日確認 https://www.resona-saiyo.com/recruit/interview/os-04/ )/日本マスタートラスト信託銀行 RECRUITING「キャリア入社社員インタビュー01」(掲載日の記載なし・2026年11月7日確認 https://www.mastertrust.co.jp/saiyo/career/midcareerprofessional01/ )/年金積立金管理運用独立行政法人「GPIFのお仕事紹介 職員インタビュー(投資運用部 ファンドマネジメントグループ/ポートフォリオマネジメントグループ)」(2023年7月収録・2026年11月7日確認 https://www.gpif.go.jp/job/interview/01.html )/東京海上日動 キャリア採用情報「異業種転職録」(掲載日の記載なし・2026年11月7日確認 https://www.tokiomarine-nichido-careers.com/jobchange/episode_03/ )
4件のうち3件は、運用会社、資産管理専門の信託銀行、公的年金の運用機関と、資産運用に関わる職場に移っていました。今回紹介した4件の中に、銀行の市場部門から事業会社の財務部門へ移った例はありません。
職務経歴書には、扱った商品と金額、リスクの管理方法を書く
市場部門の経験は、数字で示せる部分が多くあります。担当した商品(国債、外債、株式、為替、デリバティブなど)、運用した金額の規模、任されていたリスクの上限、運用の結果を、守秘義務に反しない範囲で書いておきましょう。ALMの担当者は、金利の変化が収益に与える影響をどう測り、どんな対策を経営陣に提案したかを書くと、仕事の中身が伝わります。
銀行の中で管理部門と一緒に市場リスクの管理に関わった人には、リスク管理・コンプライアンスの経験と転職先の記事も参考になります。投資信託を顧客に販売した経験もある人は、個人営業の経験を活かせる転職先の記事で、証券外務員などの資格の要件を確認しておいてください。
統計や資格試験の内容、各社の採用情報は改定されることがあるため、応募する前に各機関と各社の最新情報で確かめてください。
参考・出典:資産運用業協会「統計データ」(投資信託全体の純資産総額〔年次〕・投資信託の全体像〔2026年9月末〕・投資信託概況〔2026年9月〕)/日本証券アナリスト協会「CMA2次レベル試験データ」・「CMA資格とは」/厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「ファンドマネージャー」/同「証券アナリスト」/同「ディーラー」(いずれも2026年11月7日確認)




