暗号資産交換業者が破綻したときに利用者の財産を守るのは、資金決済法が定める分別管理の義務です。預けた日本円は信託会社などへの信託で守られます。暗号資産は業者自身の分と分けて管理され、ほかの債権者より先に返してもらう権利も認められています(2026年10月時点の条文)。
一方で、預金保険のように公的な制度が一定額まで肩代わりする仕組みはありません。守られるのは業者が実際に分けて管理していた財産の範囲までで、不正流出などで減った分は優先して返してもらえる対象から外れる点に注意が必要です。
分別管理とは、利用者の財産を業者自身の財産と分けて管理すること
分別管理とは、暗号資産交換業者が利用者から預かった金銭や暗号資産を、自社の財産と分けて管理することです。資金決済法第63条の11が業者の義務として定めており、日本円と暗号資産とで守り方が異なります。
日本円は、業者の口座に置いておくだけでは足りず、信託会社や信託業務を営む銀行に信託しなければなりません(同条第1項)。暗号資産は、どの利用者の分かがすぐに分かる状態で、業者自身の暗号資産と区別して管理します(同条第2項、暗号資産交換業者に関する内閣府令第27条第1項)。
管理の状況については、毎年1回以上、公認会計士か監査法人の監査を受ける決まりです(同条第3項、内閣府令第28条)。業者の申告だけに頼らず、外部の監査人が帳簿と実際の保管の状況を照らし合わせます。
預けた財産ごとの守られ方と、銀行の預金との違いは下の表のようになります。
| 預けた財産 | 平常時の管理 | 業者が破綻したとき | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 日本円 | 信託会社等への金銭信託 | 弁護士などの受益者代理人が、利用者の受益権をまとめて行使する | 資金決済法第63条の11第1項、内閣府令第26条 |
| 暗号資産 | 自社分と区別し、原則としてコールドウォレットで管理 | 分別管理していた暗号資産と履行保証暗号資産から、ほかの債権者より先に返す | 資金決済法第63条の11第2項・第63条の19の2 |
| (参考)銀行の預金 | 預金保険制度の対象 | 元本1,000万円までとその利息を保護(決済用預金は全額) | 預金保険法 |
※e-Gov法令検索の資金決済法・暗号資産交換業者に関する内閣府令(2026年10月24日時点の条文)と預金保険機構の公表資料をもとに作成。
預けた日本円は、信託を通じて弁護士などの受益者代理人が返す
内閣府令第26条は、日本円の信託契約が満たすべき条件を細かく定めています。業者が委託者、信託会社等が受託者となり、元本の受益者は利用者です。受益者代理人のうち少なくとも1人は、弁護士・公認会計士・税理士などから選ばなければなりません。
業者の登録が取り消されたときや、破産手続などの申立てをしたときは、弁護士などの受益者代理人だけが権限を使えるようになります。業者は信託財産の運用を指図できなくなり、受益者代理人が全利用者の受益権をまとめて行使して、お金を返す手続きに進みます。
信託の額が預かっている金額の合計を下回ったら、業者は不足した日の翌日から2営業日以内に差額を追加します(内閣府令第26条第1項第6号)。信託財産の運用先も、元本が大きく動かない方法に限られています。
預けた暗号資産は、95%以上をコールドウォレットなどで保管する
コールドウォレットとは、暗号資産を動かすのに必要な秘密鍵を、常時インターネットに接続していない機器や記録媒体に保管する方法のことです。内閣府令第27条第3項は、利用者の暗号資産をこの方法か、同じ程度の安全管理措置で管理するよう求めています。
出金にすぐ応じるため、インターネットにつないだ状態(ホットウォレット)に置いてよい量には上限があります。円に換算して、業者が管理する利用者の暗号資産の5%までです(同条第2項)。
さらに業者は、ホットウォレットに置いた利用者の暗号資産と同じ種類・同じ数量の暗号資産を、自社の財産として別に持たなければなりません。これを履行保証暗号資産といい、こちらもコールドウォレットなどで管理します(資金決済法第63条の11の2)。
利用者から円換算で100億円分の暗号資産を預かっている業者を例に、当サイトで条文の上限を当てはめると次のようになります。
| 区分 | 金額の目安 |
|---|---|
| 利用者から預かる暗号資産の総額 | 100億円 |
| ホットウォレットに置ける上限(総額の5%) | 5億円 |
| コールドウォレットなどで管理する分 | 95億円以上 |
| 業者が別に持つ履行保証暗号資産 | ホットウォレットに置いた分と同じ種類・数量(最大5億円相当) |
※資金決済法第63条の11・第63条の11の2、内閣府令第27条の上限をもとにした当サイトの試算。実際にホットウォレットに置く割合は業者ごとに異なります。
ホットウォレットから利用者の暗号資産が盗まれても、同じ量の履行保証暗号資産が残っていれば、利用者へ返すための財産は確保されます。インターネットにつながっている部分が狙われやすいことを前提に、二重の備えを置いているわけです。
破綻したとき、暗号資産はほかの債権者より先に返してもらえる
資金決済法第63条の19の2は、業者に暗号資産の管理を任せた利用者に、優先弁済を受ける権利を認めています。優先弁済とは、業者の財産が足りないときに、ほかの債権者より先に支払いを受けられることです。
対象になるのは、業者が分別管理している利用者の暗号資産と、履行保証暗号資産の2つです。業者に融資している金融機関や取引先などの債権者がいても、この2つからは利用者へ先に返されます。
ただし、優先して受け取れるのは、この2つに実際に残っている分までです。同条は民法第333条を準用しており、業者が第三者へ移してしまった暗号資産には権利が及びません。流出や不正な持ち出しで減った分は、優先して返してもらえる対象から外れます。
業者から暗号資産の管理を任された委託先などの関係者も、この権利の実行について内閣総理大臣から協力を求められたら、応じるよう努めなければなりません(同法第63条の19の3)。
預金保険の対象外なので、公的な補償の上限という考え方がない
暗号資産は預金ではないため、預金保険制度(ペイオフ)では守られません。預金保険は銀行などが破綻しても元本1,000万円までとその利息を保護しますが、暗号資産交換業者には同じような公的な肩代わりの仕組みがありません。
預金は公的な制度が上限まで穴埋めするのに対し、暗号資産は業者が分けて管理していた財産の範囲で返ってきます。分別管理が守られていれば預けた分を取り戻せる可能性が高く、守られていなければ、どこまで戻るかは残っている財産しだいです。
値下がりによる損失は、どの仕組みでも補われません。優先弁済の対象は暗号資産を移転してもらう権利なので、返ってくるのは預けた数量で、円に換えたときの金額はその時点の相場で決まります。
過去の行政処分では、出金停止や不正流出への対応が問われた
2022年11月10日、関東財務局はFTX Japanに対し、業務停止命令と業務改善命令に加えて、資産の国内保有命令を出しました。親会社の方針として出金を止めたまま、新たな受け入れを続けていたことが理由の一つです。親会社の信用不安のなかで、資産が国外の関連会社へ流れるおそれもありました。
2024年5月31日には、DMM Bitcoinが管理していた顧客からの預かり資産4,502.9BTCが不正に外部へ送信されました。関東財務局は同年9月26日に業務改善命令を出し、秘密鍵の署名作業を1人で行っていたことや、秘密鍵を一括で管理していたことを問題として挙げています。
どちらの処分でも、預かった資産の保全や被害を受けた顧客の保護が命じられました。2025年6月に成立した改正資金決済法(2026年6月1日施行)では、資産の国内保有を暗号資産交換業者に命じる規定が資金決済法にも置かれています(第63条の16の2)。
2026年の法改正で、不正流出に備える責任準備金が加わる
2026年7月15日に成立した金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律(令和8年法律第64号)により、暗号資産の取引の規制は金融商品取引法へ移ります。金融庁の説明資料では、コールドウォレットでの管理などいまの安全管理措置について、金融商品取引法にも同じ規制を設けるとしています。
新しく加わるのが責任準備金です。不正流出が起きたときに顧客へ補償する原資として、業者に積み立てを求めます(改正後の金融商品取引法第46条の5)。積立率は管理する暗号資産の残高やセキュリティの水準を考えて内閣府令で定める予定とされています。
この規制の移管の施行日は、公布の日(2026年7月23日)から1年を超えない範囲で政令が定める日で、2026年10月時点ではまだ決まっていません。施行までは、この記事で説明した資金決済法の分別管理と優先弁済の仕組みが適用されます。
利用者が自分でできるのは、登録の確認と預けっぱなしを避けること
業者が破綻したときの備えは法律で決まっていますが、利用者の側でも損失を小さくする方法があります。登録の有無の調べ方は、暗号資産交換業者の登録制度と確認方法の記事で紹介しています。
- 金融庁の登録一覧に、運営会社の商号と登録番号が載っているかを調べる
- 利用規約や取引の説明書面で、日本円の信託先と暗号資産の管理方法が書かれている箇所を読んでおく
- 売買に使う予定のない日本円や暗号資産を、必要以上に業者へ預けたままにしない
業者が暗号資産交換業をやめるときは、30日前までに公告し、すべての営業所に掲示しなければなりません(資金決済法第63条の20第3項)。公告をした業者は、預かっている財産を速やかに利用者へ返すか移さなければなりません(同条第5項)。知らせが届いたら、早めに出金や移管を済ませておきましょう。
取引で利益が出たときの税金の計算は、暗号資産(仮想通貨)の税金と確定申告の記事で説明しています。
制度の内容は改正されることがあるため、暗号資産を預ける前に各機関の最新情報で確かめてください。


